詩歌藩国の戦争“Yes.My Lord”

『Yes.My Lord.』

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 これはイベント39になし藩炎上直前の風景である。

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 “銀の剣はあなたと共に”

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 指揮系統は寸断され、各部隊毎に戦闘が続いていた。

 詩歌藩国は部隊を緊急召集し、即座に作戦を立案部隊の移動を開始する時だった。補給物資を輸送しにきた葉崎京夜が到着したのは。弾薬と燃料の配布を指示し作戦の詳細を聞く為に藩王の元に向かう葉崎。

 藩王は指揮官服に身を包み離脱のタイミングについてトモエのパイロットと打ち合わせの最中である。が、何やら揉めていた。

どうやらノーマルスーツを付ける付けないで揉めているらしい。どうしましたか、と顔を突っ込む葉崎。

「ノーマルスーツ? 不要だ。」と藩王の言葉に眉をひそめる葉崎。

「藩王。せめてノーマルスーツだけでも。」

「耐ギャグ(G)スーツです。速度的に寒さはすごいはずですから」と清水魁斗。

「それは君が付けたまえ」とにべもない藩王。

「王が落ちれば、部隊への影響が激しいでしょう。私のような者が落ちた程度なら、戦意高揚の種にでもすればいいでしょうが、あなたは代えが利かないのだ。」

「敵もそう思ってくれればいいな。」

「そう…ですね。」項垂れる葉崎。

そもそも今回の作戦は王を囮として敵集団を釣る事に意味があるのだ。目立って目立ちすぎという事は、無い。勿論葉崎とてその事は承知していた。歯を噛み鳴らす葉崎。

項垂れた顔を上げた葉崎が言の葉を紡ぐ。

「では、藩王…いや、九音様。御武運を。銀の剣はあなたと共に。」

「ああ。……留守は任せます。」

「Yes.My Lord.」詩歌藩国宙軍式の敬礼。

 踵を返そうとする藩王に胸ポケットから取り出した物を放り投げる葉崎。藩王の手に収まったのは安っぽい青の強化ガラスを埋め込んだペンダント。

「安っぽいですがお守りですよ。」にこりと微笑み背を向け歩き出す。

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次々と撤収していく輸送機に乗り込み、国許へ指示を出す。

「可能な限り国民を藩邸に移動させなさい。いざとなったら輸送機でそのままほかの藩国に避難させます。」藩王の許可などない。全ては民を守る為だと葉崎は自分に言い聞かせる。

「この首で足りればいいですがね。」苦い笑みを浮かべた。

必要な書類を準備しながら多くのものが知っている歌を口ずさむ。

 ”長い夜が 昼を分けるのは”

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詩歌藩国には名物である二人の吏族がいる。

竜宮司と寅山日時期である。

何かある度に寅山に発砲する竜宮と、いつもアッパーテンションの寅山で竜虎コンビなどと呼ばれている二人だが、今日この時だけは普段と違っていた。

向かい合った二人の間に下りるのは沈黙。

沈黙に耐えかねた寅山が叫ぶ。

即座に反応した竜宮がクイックドロウ。銃口を寅山の額に突きつけた。

ここまでがいつも通りだ。

ふと一般回線から歌が聞こえた。何もかもが懐かしいあの歌だ。

くるりとトリガーガードに指を掛けて銃を回しグリップを差し出す竜宮。

「持っていけ。」

微かに笑みを浮かべ受け取る寅山。

自分の部隊へと歩き出す二人。

すれ違い様に、お互いの掲げた掌を打ち合わせる。

「「死ぬなよ。」」


”人の心が二つあるため”


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 次々と移動を開始する部隊の中で花陵の服の裾を引っ張る者達が居た。

ん?と振り返る花陵。誰も居ない。

「おかしーですねー?」と下を見ると、何人かの子寅たちが、居た。どうやら輸送機に潜り込んで来たらしい。

「ここは危ないですよ。」と花陵。こんな時でも他人の心配である。いや、こんな時だからこそだろう。

一斉に前肢に持っていた物を差し出す子寅達。

色とりどりの花で編んだ冠と首飾りである。

花弁が風に舞った。

言葉にならない花陵。子寅達を抱き締める。

赤くなる子寅達。

「いってきますね!」

元気よく走り出す花陵。

”夏の終わりに秋が来るのは”

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鈴藤瑞樹は森精華を前にして口を開いた。

「あのっ!」

そして詰まった。何を言っていいかわからない。正直戦闘よりも緊張した。

「何ですか。出撃なんでしょ。早く行ったらどうなんですか。」

睨む様な目付きで答える森。

項垂れる鈴藤。だが、ここで退いてはもう後が無い。とばかりに顔を跳ね上げる。

驚く森。ちょっと怯えてる。

傷ついた表情の鈴藤。

「あ。あのっ!」

「だから、何なんですか?」

「帰ってこれたら、何処か一緒に行きませんか!」ついに言った。よくやったぞ鈴藤。

沈黙する森。周りの殺気の篭った視線が痛い。だがもう後には戻れない。

「俺。ずっと前から貴女のファンでした。いつも一生懸命な貴女を応援してました!」もう自分が何を言ってるのかわからない鈴藤。

「そっそったらこと!」赤くなる森。

微かに頷く森。


”冬の終わりに春が来るため”

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とさかを揺らす士具馬。

この鶏冠は彼にとっての誇りである。

危機にあった自分を、何の見返りも無く助けてくれた誇り高いあのカップルにかけてこの戦闘は負けられないと誓う士具馬。

そんな彼の心に宿ったもう一振りの銀の剣を思い起こす。

あの朝旅立ったぼさぼさの髪をした女性のことだ。

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輸送機内でいくつものルートを使い一つの通信回線が完成した。

いくつものいくつもの回線を経由し、時には作り出し完成した、たった一言だけを伝える為の。

それは、一人の心の中にある銀色の剣を呼び覚ます為の魔術である。

「こちら葉崎です。回線クリア。貴女だけにしか出来ない事です。繋ぎますね。」

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士具馬の個人端末が着信をコール。

「ん、こんな時に誰だ?」

送信元はアンノウン。唯の悪戯にしては胸が騒ぐ。

端末を握る手にじわりと嫌な汗が纏わりつくのを持ち替えて拭いながら、でる。

「私です!士具馬さん大丈夫ですか!?」

元気のいい声が飛び出てきた。目を白黒させる士具馬。

「無事なんですか!?」

ちょっと泣きそうな声。ああ、俺が聞きたかったあの声だ。

「無事だよ。今から戦闘だけど、大した事は無い。」

安心させるような、それこそちょっと世界を征服してくるとでも言いそうな声で答える士具馬。

「よかった!」

涙の気配が遠のいた声が聞こえる。現金だな、とちょっと思ったがうれしくもあった。

「いってらっしゃい!気をつけてね!」

「あぁ、行ってくる!」


”巡り 再び 繋がる 回る”

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経は困っていた。

もうすぐ出撃だ。戦闘の前はいつも緊張する。

「うぅ、お腹痛い。」

そもそも自分は戦闘に向いてないのだと落ち込む経。

ぼふりと自慢のアフロを撫でられて飛び上がって驚く経。

「なっ!何っ!?」

清水魁斗がゆっくりと頭を撫でている。

「ししししし清水さん。何ですか?」

驚いたのかちょっと涙目。

「大丈夫だ。」

いつもの通りの声を懸ける清水。

「でも、死ぬかもしれないんですよ!」

それでも、清水の言葉は揺るがない。

「大丈夫だ。」と。

経は思った。

怖いのは嫌いだ。

痛いのは嫌いだ。

でも、ここで私達が戦わないと他の誰かが泣くことになる。

顔を上げて涙を拭う。

「もういいな。」

「はい!」

心の中に浮かぶのは銀の剣。

”全てを無くしたときに生まれ出る”

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ゆっくりと歌い続ける葉崎。

開いていいる一般回線を通じて、詩歌藩国のあちこちで流れ始める歌。

街角で聞こえる歌に少女は声を合わせる。

「おかーさん。このお歌きれーだね!」

答える母親。

「そうだね。貴女が大きくなったらこの歌のことを教えてあげるわ。」

そう言った彼女も合わせて歌いだす。つられて隣のサラリーマンが歌いだした。

嬉しくなった少女が、町を走りながら歌を振りまいていく。


「皆が幸せになりますように!」

街角に止めてあった軍用車両のマイクがその声を拾う。

拾われた声は軍用回線を通じて前線へと送られる。

戦いに向かう者たちの元へ。

”その剣の名は豪華絢爛”

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